事業承継:スムーズにバトンタッチするために、 今からやっておくべき「3つのこと」【前編】

「事業承継」の現場で何が起きているか?

%e3%82%bf%e3%83%83%e3%83%81現在、我が国の人口構造は大きく変化しています。1999年から労働力人口が減少に転じ、総人口も2005年から減少が始まっています。このような人口構造の変化は、中小企業経営の現場にも大きな影響を及ぼしています。中小企業経営者の平均年齢は上昇傾向にあり、また、スムーズな世代交代が行われていない、というのが現状です。

さらに、世の中の多くの中小企業では、オーナー社長の強烈なリーダーシップに基づく会社経営がされており、6割以上の中小企業は「事業承継の準備が全くできていない」といわれています。

事業承継について「準備ができていない」あるいは「後回しにされる」のは、「多額の資金や多くの時間を投下しても、会社の業績にはプラスにならないから」というのが最大の理由です。しかし、オーナー社長の力に依存する体質であるがゆえに、準備不足の状態で事業承継が必要となった場合には、下記のような様々な問題が起こってしまいます。

準備不足の事業承継で起こる問題の例

(1)経営ノウハウの伝承不足
(2)社員、取引先、金融機関等のステークホルダー(利害関係者)との信頼関係崩壊
(3)多額の相続税負担や遺産相続争い

せっかく「高い技術力」や「サービス力」を持っていたとしても、上記のような事態に陥ってしまい、事業承継の失敗がもとで廃業に至るというケースも数多くみられます。そのようなことにならないために、次の「今からやっておくべきこと」に着手しましょう。

早めの世代交代が業績向上のカギ!
早期に、計画的に進めていきたい対策とは?

事業承継の準備や計画の必要性は理解できたものの、「何から着手すれば良いのか分からない」という方も多いのではないでしょうか。しかし、このまま手をこまねいていて、「事業承継に失敗して廃業」という最悪の事態を迎えることは避けなくてはなりません。
そのためには、大切な「会社の将来」を見据え、スムーズな事業承継のための様々な準備を「出来るだけ早期に」且つ「計画的」に進めていく必要があります。

事業承継の準備が早ければ早いほど、世代交代がきっかけとなり、「業績のさらなる向上」に繋がるといっても過言ではありません。

それでは、具体的にどのような対策を講ずるべきでしょうか?
事業承継に備えてやっておくべきことは、大きく分けて以下の3つです。

(1)後継者の決定と事業承継を踏まえた中期経営計画の策定
(2)後継者の育成と技術や経営ノウハウの承継
(3)資産の承継(自社株対策、相続対策等)

これらについて、ひとつずつ確認していきますが、今回の前編では、(1)と(2)を確認していきます。

(1)後継者の決定と事業承継を踏まえた中期経営計画の策定

後継者の決定

事業承継といえば、一般的には「税金対策」だけが注目されがちですが、第一に考えるべきことは「誰を後継者に据えるか?」ということです。

(A)子等の親族への承継
多くの場合「親族」に承継することになります。後継者にふさわしい子がいることがベストです。社長からその子へのバトンタッチの場合、社員や取引先等の理解も得られやすく、準備期間も比較的取りやすいため、優先して考えるべき選択肢といえるでしょう。注意しておくべきことは「社長の相続対策」です。相続人が複数いる場合には、遺産相続で揉めることもあるので、遺産分割を慎重に行う必要があります。

(B)従業員への承継
子に承継の意志がない場合や、親族に適任者がいない場合、次に考えるべき選択肢は役員・社員への承継です。長年勤務して社内外のことを知り尽くした社員であれば、スムーズに承継が進むことも多いはずです。しかし、個人債務保証についての抵抗や、自社株をどのように承継させるか等、クリアすべき問題が多く、頓挫してしまうケースも少なくありません。

(C)第三者への承継
親族にも、従業員にも、後継者に該当する者がいない場合、最後に検討するのは「第三者への事業譲渡」や「M&A」等になります。経営者が「会社売却の利益」を得られる可能性がある反面、「買い手を見つける苦労」や「仲介会社への手数料」等の負担が発生する、というデメリットもあります。

中期経営計画の策定と実行管理

(A)事業承継を踏まえた中期経営計画の策定
後継者が決まったら、次に着手すべきことは「中期経営計画の策定」です。経営を後継者にバトンタッチする際には、現状と将来の構想等を「見える化」しておくことが大切です。具体的には、下記の内容を織り込んだ5~10年の中期経営計画を策定します。

事業承継を踏まえて策定する必要があるので、社長交代までのプロセスをしっかり明記しておくことや、後継者の育成計画も織り込んでおくことがポイントになります。

■中期経営計画に織り込む内容
経営理念/中期経営目標/経営戦略/社内体制図(組織図)/部門目標と行動計画/利益計画/販売計画(商品別、顧客別、支社別等)/経費計画/資金計画

(B)もっとも大切なのは「計画の実行管理」!
経営計画については、もちろん「作ること」が目的ではありません。その実行管理をしっかり行い、経営目標を達成するのが最大の目的です。
経営計画の策定後は、毎月必ず「月次決算」を実施するとともに、「予算実績管理」や「差異分析」をしっかり行って、計数管理能力を高めましょう。

そして、次の打ち手を決め、実行に移す
これをコツコツと繰り返し行っていくことが大切です。

(2)後継者の育成・技術や経営ノウハウの承継

完成した事業承継計画を実行に移すと同時に、後継者の育成をしながら、技術・ノウハウの承継を行いましょう。

会社を永続させるために必要な「業務知識」や「経験」はもちろん、人脈形成やリーダーシップ等の「経営者としてのスキル」の習得のほか、先代経営者の理念やビジョン、価値観等の「無形の資産」を引き継いでいくことが大切です。この段階では、後継者に「経営者としての資質や能力、マインド」などを承継してもらうのが最大の目的です。

また、後継者の育成と同時に「資産の承継」も進めていかなくてはなりません。具体的には、遺産分割等の相続対策や自社株対策等、対策しておくべきことは盛りだくさんです。こちらについては次回、詳述します。

まとめ

世の中の中小企業の多くが「事業承継」について上手くいっていない、または、ほとんど準備が出来ずに何も着手していない…という状況です。
まずは「後継者の決定」をしっかりと行い、「中期経営計画」や「事業承継計画」を策定し、早めの世代交代に着手することが第一歩です。
先の見通しを立てながら、スムーズな事業承継と業績向上を実現しましょう!